2026/06/26 11:47
毎年恒例となっている、NikeとOregon Health & Science University(OHSU/オレゴン健康科学大学)附属のDoernbecher Children’s Hospitalによる「Doernbecher Freestyle Program」。2026年で通算22回目を迎えるこの取り組みですが、その詳細について知る方は多くないのではないのでしょうか。

Vomero Plus x Doernbecher Freestyle “Molly”(私物)
Doernbecher Freestyle Programとは
毎期6名の小児患者がNikeのデザイナーと協働し、自身のストーリーを落とし込んだ特別仕様のスニーカーを制作します。完成したモデルは実際に市場で販売され、その収益はすべて同病院へ寄付される仕組みです。デザインの主役はあくまで子どもたちのため、彼らの自由な発想で表現された色、憧れのヒーロー、闘病の経験、家族への想いといった、それぞれの物語がスニーカーに落とし込まれます。
同プログラムでは毎期6モデルがリリースされますが、私の知る限り販売の中心は米国国内。日本では入手機会が限られることもあり、モデルによっては高額なプレミア価格が付くことも珍しくありません。2025年はAir Jordan 17をベースにした一足が界隈で話題となりました。

Air Jordan 17 Doernbecher Freestyle via sneakernews.com
一方で、すべてのモデルが同じように注目を浴びるわけではありません。特にランニングシューズなどのパフォーマンス系モデルは、ジョーダンやAir Maxなどに比べると人気が落ち着く傾向にあるように感じます。生産数自体は多くないはずですが、発売から1〜2か月経っても米国のNike.comで購入可能なケースも見られます。
しかし、そうしたパフォーマンスシューズにも目がない私にとって、2025年コレクション(発売は2026年初頭)の中で、個人的に一段と輝いて見えたのが、ランニングシューズとして評価の高いVomero Plusをベースにした特別仕様「Vomero Plus x Doernbecher Freestyle “Molly”」でした。幸運にも入手することができたため、本記事ではプログラムの背景を振り返りつつ、この一足の魅力をレビューしていきます。

箱も特別仕様(私物)
闘病中の子どもたちが手掛けた特別なスニーカー
Doernbecher Freestyle Programの最大の魅力は、子どもならではの自由な発想で表現された作品という点にあると思います。通常、ナイキを始めとしたグローバルブランドのスニーカーは、過去の販売実績や市場データに基づいたカラーブロッキング、売れ筋素材の組み合わせなど、緻密な計算のもとで設計されます。しかしこのプログラムでは、そうした常識が一度横に置かれます。
デザイナーは子どもたちであり、彼らの頭の中にある色彩や象徴が、そのままデザインに反映されます。もちろん製品化までにはナイキ側の手が加えられることになりますが、大胆な配色、予想外の素材使い、そして随所に散りばめられたメッセージなど、そこにはマーケティング的な正解よりも、デザイナーである子どもたち一人一人がもつ真実が優先されているように思われます。
例えば、長年にわたり実施されてきた中で、スニーカーファンから特に高い支持を得た一足として語り草になっているのが、2011年のAir Jordan 4 Doernbecher “Isaiah Scott”です。シュータンには版権元から正式に使用許可を得たスーパーマンロゴ、差し色にはスーパーマンが苦手とするクリプトナイトを思わせるグリーン。ブラックスエードのアッパーにはレーザー加工の矢印が刻まれ、ヒールにはデザイナー本人のシルエットがあしらわれました。個人的なヒーロー体験とデザイナー本人が見たNBAオールスターウィークエンド(もっと言うと、スーパーマンとクリプトナイトの対戦となったダンクコンテスト)の記憶が融合した一足でした。

Air Jordan 4 Doernbecher (2011) via sneakernews.com

Air Jordan 4 Doernbecher (2011) via sneakernews.com
Vomero Plus x Doernbecher “Molly” の着用レビュー
ここからは、今回入手した“Vomero Plus x Doernbecher Freestyle ‘Molly’”を写真とともにレビューしていきます。

デザイナー本人のプロフィールとデザインの背景について記されたカードが付属していました(私物)

Zoom Xクッショニングが搭載されたミッドソールは非常に分厚く、ボリュームのある見た目です(私物)
まずベースモデルであるVomero Plusは、ナイキのランニングシューズカテゴリの中でもボリュームのあるミッドソールが特徴のクッション性に優れたランニングシューズとして評価されています。前述した通りストリートシーンで支持されていると言うよりは、競技用シューズとして多くのランナーに着用されているように思われます。
“Molly”モデルでは、アッパーにグリーンを基調とした鮮やかなカラーリング、そして側面にオオヒナユリの刺繍や葉をモチーフとしたスウッシュが配されたりと、随所に彼女を表すモチーフが散りばめられています。大胆なグリーンのカラーリングの一方で、ミッドソールは大地をイメージしたブラウンが使われており、彼女が愛する自然が表現されています。

内側のスウッシュには緑の葉が散りばめられたようなデザインが施されており、また、見る角度によって別の葉が現れる仕様の材質でした(私物)
ということで実際に履いてみました。今回はランニング用ではなく、主に普段履きの靴として履いた際の感想となります。クッションはZoom Xを用いたボリューミーなミッドソールで大変柔らかい履き心地です。個人的には歩行時のクッションとしては柔らかすぎたのか、もう少し安定性が欲しいと思いました。信号待ちを回避すべく、横断歩道に向かって少し走ってみたところ確かな反発力を感じましたが、歩行時にそれを感じるのはなかなか難しいように思います。

踵のプルタブにもオオヒナユリがデザインされています(私物)
サイズ感については、私は普段多くのスニーカーで選ぶ28cm (ウィメンズサイズ28.5cm)を着用し、問題ありませんでした。ただ、見た目の割に横幅はそこまで広くないように思うので、幅広の足の方はご注意ください。ちなみに私の場合、Air Force 1のようにやや大きめの作りのモデルでは27.5cmを選ぶことが多いのですが、本作は標準的なフィット感に感じますので、28cmを選んで良かったです。購入を検討される方の参考になれば幸いです。

アウトソールには動物の蹄と思しきデザインも(私物)
子どもの自由な発想に大きなリスペクト
確かに、ジョーダンやストリートで支持されている往年の名作モデルに比べれば、現行のランニングシューズはDoernbecherの企画であったとしても話題性で劣るかもしれません。しかし、特にこのプログラムにおいては人気不人気ではなく、子どもたちが手掛けた自由なデザインと、その裏に隠れているストーリーを楽しむことに重きを置きたいと個人的には思います。
例えば今作のデザインを手掛けたMollyは、植物や自然に魅了される14歳(シューズ発売当時)の女の子。彼女はこの靴を履いた人が自然の中を散策することを想定したデザインにしています。ミッドソールの濃い茶色のカラーリングと、その上にある薄い茶色の液体が飛び散ったような加工は泥汚れを目立たせないために施されたものとのこと。自分がこの靴を泥だらけにして履きたいかはさておき、少なくとも積極的に着用してソールをすり減らす気持ちにさせてもらっています。

フィールドガイドと呼ばれるノートもついています。背面には ”最も大切なことは、自分独自の才能を知り、それを世界のためにどう使うかである”のメッセージが記載されています。これはMollyが好きな植物学者の著書に記された一節とのこと(私物)

巻末にはルーペも付属していました(私物)
Doernbecher Freestyle Programは、スニーカーというプロダクトを通じて未来ある子どもたちの希望を形にする試みなのではないかと思います。私自身年齢を重ね、子どもたちと関わることも多くなった今、この企画が永続的に続けられることを願うばかりです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
